妖怪ウォッチブームは予測できた
〜ペン問問題とボイリングモデル〜

00年代後半、競技玩具界隈は大氷河期を迎えていた。 「氷河期」と聞くとメーカーからの供給、つまり新製品が無いように聞こえるが、実際は逆だ。新製品が次から次にでてくるのである。 しかしそれらは軒並みヒットにつながらず、すぐに打ち切られ、またすぐ新製品が登場するという負のスパイラルに陥った状態なのだ。 では、それらの商品に魅力がないからかといえばそうではない。爆丸の初代や、チョロQデッキシステムといった魅力的な商品もあった。 後に大ヒットとなるメタルファイトベイブレードでさえ、復活当初のこの時期、ヒットの気配はまるでなかったのだ。

この「ヒットの気配が無い状態」の原因は競技玩具の裏側での2次元ホビーの台頭があるといえる。 2001年のベイブレードアニメ化から第2次競技玩具ブームが始まったが、 それがひと段落した00年代中盤以降、ムシキング、ニンテンドーDS等のアーケードゲームや携帯ゲームが脚光を浴び、 遊戯王やデュエルマスターズ等のカードゲームも成熟していた。 物理ホビーはもう流行らないという雰囲気が漂っていたのがこの氷河期なのである。

そんな氷河期のピークである2008年頃、2次元ホビーの中でも異色のヒットと言えるのが「ペンギンの問題」である。 「面白大図鑑プレート」、通称「ペン問プレート」というコレクションカード的な商品が、 大ブームとまではいかないが、不思議なほど売れたのだ。 「不思議」というのは、この商品が魅力的な遊びや販促イベントが用意されたものでなく、 本当にただのキャラクターのコレクションホビーだったからだ。 メーカーも小売店もこのヒットを全く予想できなかったと見え、店頭で品薄気味となった。これが「ペン問問題」である。

この謎のヒットを説明する要因は、現行ホビーの高学年化による低学年ホビーの空洞化だと考えられる。 物理ホビーの大きなブームによって、一旦物理ホビー文化が全学年的に浸透したものの、 時間の経過とともに、物理ホビー文化を嗜む世代が徐々に高学年化して行き、 低学年の興味対象に大きな供給の空白が生まれてしまうのだ。 そこに、「キャラクターのコレクション」というシンプルな遊びを提示したペン問プレートがピタッとはまったのである。

もちろん、ペンギンの問題自体の人気もあるといえる。 当時同じコロコロオリジナルギャグキャラクターとして「でんじゃらすじーさん」や「ケシカス君」も人気であったが、 このタイミングでの人気は「ペンギンの問題」が優勢であったと感じている。 この差の要因として考えられるのは「一発ギャグ」の存在といえる。 「すベッカム」「ごペンなさい」といった一発ギャグを当時の子供たちはこぞって使った。 そう、イヤミの「しぇー」やおぼっちゃまくんの「ともだちんこ」、学級王ヤマザキの「オッパイよー」よ同じだ。 低学年向けギャグ漫画キャラクターとして一発ギャグは外せないのだ。 そして無償で供給されるTVアニメになりこの一発ギャグに声がつくことでより一層広まるのである。

そして2009年、アニメ化されたベイブレードが大ブレイクする。 かねてよりの物理ホビーはもう流行らないという空気を払拭し、2010年以降、爆丸、ハイパーヨーヨー、 ビーダマンといった物理ホビーが次々と復活しそれぞれ十分なヒットといえる結果となった。第3次競技玩具ブームである。 これは要するに、ペン問プレート等の低学年向けホビーをやっていた子供たちが、それが低学年向けであることを意識し始め、 よりクールでかっこいい、かつ高学年プレイヤーに独占されていない新天地として見つけだした着地点なのである。

その後も様々な物理ホビーが登場したが、2012年頃から勢いは低下。 ダンボール戦記等のより高学年向けのホビーや、オレカバトル、パズドラ、バディファイトなどの2次元ゲームが台頭するようになる。 以降2014年頃まで再び先に述べた「氷河期」といえる状態となった。



ここで、次のようなモデルを考え、2001年頃から2013年頃までの2度の競技玩具ブームと氷河期の間の流行の流れをとらえたい。

ビーカーのような器に水が満たされていて外から加熱されている。水は沸点に達し、泡ができて上に上っていく。 水は消費者であり、泡一つがホビー1タイトルを示す。泡の大きさがそのタイトルの流行の大きさを示す。 加熱はメーカーの供給であり、ビーカーの上下は消費者の世代で上に行くほど高学年である。 湯を沸かしているのでボイリングモデルと呼ぼう。

2001年頃、初代ベイブレードのアニメ化から第2次競技玩具ブームとなる。大きな泡が真ん中にできている。 巨大なブームであり全学年的に浸透している。

2004年頃、ベイブレードブーム自体は鎮静化するが、ヒットの影響から多数の物理ホビーが登場する。

さらに2006年頃になると物理ホビー文化の中心は高学年となっている。氷河期到来である。 下部は泡になり損ねていて、水のままで加熱を待つ状態のエリアができている。

そこに対し、低学年層にピンポイントで加熱を加えたが2008年のペンギンの問題である。 一発ギャグとアニメ化の要素を満たしたキャラクターが2次元コレクションホビーとして登場したのだ。
しかし所詮低学年向けであり明確な遊び方も用意されていないキャラクター玩具、世代が進むにつれ子供たちに飽きがくるのである。

ほぼ同時に登場していた第2世代ベイブレードは、09年アニメ化され一気に普及。 中学年とも言えるペンギンに飽きていた層にアニメ化された新ホビーがマッチしたといえる。

他の復活物理ホビーも加わり、2012年頃まで第3次競技玩具ブームとなる。

しかし2013年にもなると、これら物理ホビー文化も高学年化が進み、衰退していく。再びの氷河期である。 そして、容器の下部には再び泡のないスペースができたのだ。

2014年、泣く子も黙る社会現象となったのが妖怪ウォッチである。 前年より発売されていたゲームソフトがアニメ化されこれが低年齢層を中心に人気となった。 そして、主人公が使用していた腕時計型アイテム及びそれに連動するコレクション性のあるメダルのおもちゃが販売されると爆発的なヒット商品となったのだ。

ただ、このヒットはメーカー的にも販売店的にも予想外の出来事だった。 なぜならば、玩具の遊びとしてはウォッチにメダルを挿入すると劇中音声とメダル名が流れるだけの、 男児ホビーとしては非常にシンプルなものだったからだ。 メダルに関してはゲームとの連動はあるものの、この程度の玩具はザラであり、発注段階ではそれほど注目されていなかったのだ。 そのため需要と供給のバランスが崩れ、極端な品薄となってしまったのである。

この妖怪ウォッチのヒットからキーワードを抜き出すと、 「シンプルな平面コレクション玩具」「コミカル路線・ギャグ漫画」「キャラクターがいっぱい」 「低年齢でウケる」「大きな期待はされていなかった」、そして「競技玩具氷河期のピークで登場」である。 そう、ペンギンの問題と同じなのだ。 もちろんヒット規模としては妖怪が圧倒しているが、これはアニメの質やゲームが主体となってる点など違いからなるものだといえる。

ちなみに先にペンギンの話で述べた「一発ギャグ」について、 一見妖怪では無いように見受けられるが、劇中で話題になったワードがある。 「妖怪の仕業」だ。子供たちがなにかにつけて妖怪のせいにするようになったと問題視する人もいたが、 要するに子供はこの言葉を発するのがおもしろかったのだ。若干定義は違うが、本質的には一発ギャグである。

そしてペンギンと妖怪の共通点は先ほどのボイリングモデルにも現れている。 競技玩具氷河期状態で物理ホビーは高学年化、低学年向けホビーが空席となっていたのである。 ペンギン流行前の状態に酷似しているのだ。この兆候に正しく気づけていれば、妖怪ウォッチブームは間違いなく予測できたであろう。

そして現在、妖怪ブームもひと段落、当時の低学年も今は中学年である。 ペンギンの問題ブームの後にやってきたことといえば・・・、みなさんおわかりだろう。

2016年1〜2月頃文章書いたけど放置
2016/08/16加筆修正画像追加してUP

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